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「メンデルスゾーン・チクルス」開催によせて、小石かつらさんよりメッセージをいただきました。

2023.05.26

メンデルスゾーン・チクルス開催に寄せて、メンデルスゾーン研究者の小石かつらさん(関西学院大学文学部教授)より寄稿いただきました。

 

哲学者の祖父、大銀行を経営した父。ドイツ人社会に生きるユダヤ人一家の三代目として、メンデルスゾーンは、莫大な経済力を基盤に実現した「理想的なドイツ的環境」で育ちました。その教育とは、ピアノ、ヴァイオリン、作曲、英語、仏語、伊語、ギリシャ語、ラテン語、文学、数学、地理、歴史、美術史、デッサン、水泳、フェンシング等を、それぞれ第一人者に学ぶというものでした。ベルリンの大邸宅の庭には、100人以上が入れるサマーハウスが建てられ、隔週日曜日に宮廷楽士が雇われて音楽会が開かれました。招待されたのはフンボルトやハイネといった錚々たる知識人たち。少年メンデルスゾーンは、ここで自作を披露していたのです。

1835年、26歳でライプツィヒのゲヴァントハウス管弦楽団第5代指揮者に就任します。彼は演奏曲目の選定も担いました。当時は存命作曲家の作品を演奏することが主流でしたが、バロック時代に遡って歴史的な作品を発掘し、演奏するシリーズを実行します。そう、メンデルスゾーンは、今日私たちが慣れ親しんでいる「レパートリー」を作り上げていった張本人なのです。また組織運営も得意で、団員の雇用や社会保障制度を確立させるなど、現代のオーケストラ組織の基礎を築きました。大成功をおさめた「興行家メンデルスゾーン」の影響力は甚大で、それが「ドイツ文化」の基盤となり、今日我々が共有する「文化」のグローバル・スタンダードの出発点となったのです。

  

さて、今回のチクルス。第1回は有名なヴァイオリン協奏曲の他、交響曲第1番と序曲《静かな海と楽しい航海》が演奏されます。交響曲第1番は、15歳の時に自宅での演奏会で初演した曲で、当時の様子を垣間見ることができます。序曲は本人のお気に入りで、作曲したての時の友人宛の手紙には「曲の真ん中位でピッコロが入ってきて、殺人のスキャンダルのような効果を生む。君は気に入ると思うよ。僕にもすごく新鮮だから」と記されています。この楽しそうな文面が、全てを語っている気がします。

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